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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)2893号 判決 1988年9月28日

原告

北山剛

右訴訟代理人弁護士

橋本二三夫

被告

川上光秀

右訴訟代理人弁護士

戸谷茂樹

主文

一  別紙物件目録記載の一の土地と同目録記載の二の土地との境界は別紙図面記載のa、b点を直線で結ぶ線と同図面記載のe、f点を直線で結ぶ線との間隔の二分の一の線であることを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分しその一を原告の、その一を被告の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  (原告)

1  別紙物件目録記載の一の土地と同目録記載の二の土地との境界は別紙図面記載のa、b点を直線で結ぶ線であることを確認する。

2  被告は原告に対し、四〇万円及びこれに対する昭和六〇年四月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに第二項につき仮執行の宣言。

二  (被告)

1  別紙物件目録記載の一の土地と同目録記載の二の土地との境界は別紙図面記載のa、b点を直線で結ぶ線であることを争う。

2  主文第二項同旨。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二  当事者の主張

一  (請求原因)

1  原告は別紙物件目録記載の一の土地(以下第一土地という)を、被告は同目録記載の二の土地(以下第二土地という)をそれぞれ所有している。

2  第一土地と第二土地との境界は別紙図面記載のa、b点を直線で結ぶ線である。

3  被告は第二土地上に建物を建設したが、右境界に接して建て、その建物の第一土地側の壁面から右境界線まで五〇センチメートルに足りない。

原告はそのため第一土地上の原告所有の建物と右被告所有の建物との間にある土地部分(被告所有建物の原告側の面の線と右a、b線にほぼ平行に走る原告所有の建物の被告側の面の線とにより挟まれた部分)2.61平方メートルを使用できなくなり、そのため四〇万円の損害を被っている。

4  よって、原告は被告に対し、請求の趣旨のとおり、右土地の境界及び民法所定の賠償の請求を求める。

二  (請求原因に対する認否)

請求原因1の事実は認める。

同2の事実は否認する。本件境界は別紙図面記載のc点から原告所有建物側へ一七センチメートル、d点から原告所有建物側へ二三センチメートル寄った二点を直線で結んだ線である。

同3の主張は原告のいう本件境界を前提とした主張であり、前提において誤っている。

三  (抗弁)仮に、被告がその所有建物を民法二三四条に違反して建築している結果となるにしても、原告自身も同様にその所有建物を同条に違反して建築しているのであり、原告は自ら法を守らず他人にこれを守れと要求する資格はない。

四  (抗弁に対する認否)争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一境界確定について

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、原被告各本人尋問の結果中この認定に反する部分は右各証拠に照らして採用できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

本件第一土地は原告の、本件第二土地は被告の各所有に属する。本件各土地上にはそれぞれもと古い建物が建てられていたところ、本件第二土地上の旧建物が昭和四二年頃、本件第一土地上の旧建物がそれより前に建てられた。原告は本件第一土地をその上の旧建物とともに細川一幸から昭和四七年一月一八日に買受け、その際細川より本件第二土地との境界は軒先の下の線と説明を受けた。被告は本件第二土地をその上の旧建物とともに大背戸春雄から昭和四二年六月一二日に買受け、その際大背戸より本件第一土地との境界は軒先の下の線と説明を受けた。そして、原告被告間に旧建物については境界の紛争はなく過ごしてきた。その後昭和四八年一二月頃原告は現在の建物を建築し、その際境界に関して被告から異議はなかった。被告は昭和五八年八月頃現在の建物の建築に着工したが、その際原告から境界線からの建築距離の遵守につき異議が述べられた。本件第一土地上の旧建物の軒先の下の線は別紙図面記載のa、b点を直線で結ぶ線であり、本件第二土地上の旧建物の軒先の下の線は別紙図面記載の「北山氏所有地」側に記載の原告所有建物の南西側の面の線から三センチメートル南西側(「川上氏所有地」側)へ寄った線、すなわち別紙図面記載のe、f点を直線で結ぶ線である。

以上のとおり認められる。

右認定事実に基づいて考えると、原告被告とも旧建物が存することを前提として前主から敷地の隣接地との境界は自己の軒先の下の線であると教えられていたのであり、原告被告間に旧建物が存したときは相互に境界につき争いがなかったのであるから、本件第一土地と本件第二土地との境界はそれぞれの旧建物の軒先の下の線であるというのが妥当であるが、本件においてはそれぞれの旧建物の軒先の下の線が相重なっていたのであるから、各線の間隔の距離の二分の一の線をもって境界線とすべきである。

証人池田修の証言及び原告本人尋問の結果中には、別紙図面記載のa、b点を直線で結ぶ線上に原告所有の旧建物のコンクリートの基礎の南西側の線が走っておりそこには境界を示すと思われる木杭の痕跡が残っていたのであり、その線が本件各土地の境界である旨の証言ないし供述があり、前掲検甲第四、五号証(現場写真)によるとコンクリート及び木杭の痕跡が残っていることが認められるが、原告本人尋問の結果及び前掲検甲第四、五号証によると、そのコンクリートの厚さは僅かに五ないし六センチメートルであることが認められ、そうであれば、右コンクリートが建物の基礎であると断定するには躊躇を覚えざるをえず、その他右各証言ないし供述から右コンクリートの南西側の線が何故に本件各土地の境界であるかという点について納得いく説明を見出すことができず、結局右各証言ないし供述は右認定を左右しえない。

又、なるほど<証拠>によると、電柱の位置からみて、被告所有の新建物の北東側の線は旧建物のそれよりはさらに北東側すなわち原告側へ移動しているようにみえるが、被告本人尋問の結果によると右電柱は新建物の建築に際して移動されたことが認められ、その移動が北東から南西へという方向ではなかったことを認めるに足りる証拠がないので、この電柱の位置関係は右認定を左右しえない。

その他、右認定を覆すに足りる証拠は存しない。

よって、当裁判所は、別紙図面記載のa、b点を直線で結ぶ線と同図面記載のe、f点を直線で結ぶ線との間隔の二分一の線を本件第一土地と本件第二土地との境界線であると確認する。

二賠償請求について

本件第一土地は原告の、本件第二土地は被告の各所有に属することは当事者間に争いがない。

<証拠>を総合すると次の事実が認められ、検証の結果の被告の説明中にこの認定に反する記載があるが、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に照らして考えるとその記載はこの認定を左右しえず、他にこの認定に反する証拠はない。

本件第一土地上に原告所有建物、本件第二土地上に被告所有建物が建築されており、北東側に原告所有建物があり、南西側に被告所有建物があって、その相互の間隔は南東の端で約三四センチメートル、北西の端で約三八センチメートルである。原告所有建物は原告主張の境界線から原告側へa点で約32.5センチメートル、b点側の原告所有建物の南西の端の点で約三〇センチメートル退いているに過ぎない。又、被告所有建物は被告主張の境界線から被告側へa点側の被告所有建物の北東の端の点で約40.5センチメートル、b点側の被告所有建物の南東の端の点で約39.5センチメートル退いているに過ぎない。当裁判所が認定した前記境界線からみると、原告、被告各所有の建物の建築距離はさらにより多く民法二三四条に違反していることとなる。右各建物とも耐火建築である。

以上の事実が認められる。

右認定によると、被告はその建物を民法二三四条に違反して建築していることとなるので、特段の事情が認められない限り、原告に対してこれによる賠償をなすべき義務があるというべきところである。

そこで右特段の事情を抗弁について検討するに、その趣旨は信義則の主張と解すべきである。

信義則上、およそ法的救済を求めんとするものは自ら潔き手をもって来るべし、という要請があると解すべきであるところ、原告は被告に対し民法二三四条の遵守を求めこれに従わなかったとして賠償を請求しているけれども、右認定のとおり原告自身も同条に違反しているので、それは右信義則に反することとなる。

一般に、信義則違反の事実が認められる場合で、強行法規が適用される場合には、その強行法規の強行性の程度、内容と信義則違反の程度、内容とを法の目的に照らして衡量し後者が前者に優位するときに限り信義則の法的効果を承認することができると解すべきである。

そこで、これを本件についてみるに、民法二三四条は火災の延焼防止、隣地上の築造、修繕の便宜、日照、通風の確保等の利益を保護することを目的とすると解すべきであり、そのうちの火災の延焼防止は公益的要素の強いものであるが、その余は私益的要素に属するものである。そして右認定のとおり、本件においては原被告の各建物は何れも耐火建築となっているので、右の火災の延焼防止については重きをおく心要はない。それゆえ、同条は強行法規であるにもかかわらず、本件においてはそれほど強い強行性があるとはいえない。

他方、右認定のとおり原告自身も同条に違反しており、その程度は原告、被告ともほぼ同程度の違反であり、原告は自ら主張する境界線を前提としてさえもなお同条に違反しているのである。

このように考えると、信義則違反が民法二三四条違反に優位すると解するのが相当である。それゆえ、原告は被告に対し同条に基づき賠償を請求することはできない。

それゆえ、その余の点につき判断するまでもなく原告のこの点に関する本訴請求は理由がない。

三以上の次第で、本件境界を主文第一項記載のとおり確定し、原告の本件賠償請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官東孝行)

別紙物件目録

一 門真市向島町一九九番一二

宅地  61.81平方メートル

二 同市同町同番八

宅地  35.12平方メートル

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